"今"、NEW GAME!が面白い
「4年前に完結した漫画をいまさら面白いなんて言っても」?
分かります、その気持ち。
でも、"今"だからこそNEW GAME!が面白いと言いたいのです。
何故、今なのか
2025年はNEW GAME!にとって節目の年だと思います。というのも、NEW GAME! Complete Editionが発売されたことで、NEW GAME!は完全に「終わった」と言えるからです。本作の作者である得能正太郎先生の最新作「IDOL×IDOL STORY!」が完全版と同時発売していたことも、先生自身が新たな作品にシフトしたことを示しているといえるでしょう。
そんな今、NEW GAME!という作品は、腰を据えて総合的に評価される時期に突入したと言えるのではないでしょうか。そう、"今"こそNEW GAME!の真の面白さが見いだされうる時期なのです。
本記事の目的
これをきっかけに多少なりとも皆様がNEW GAME!を再び手に取り、様々な感想を放流していただければ、NEW GAME!の話に飢えている筆者にとっては十分に目的が達成されると言えます。調べてみても全然NEW GAME!の原作についての感想が出てこないので。
しかしながら、それだけでは寂しいので、以下では最近NEW GAME!を読み返した筆者が「面白い」と感じたことを述べます。NEW GAME!を読む気になったそこのあなたは今すぐにブログを閉じて原作を読むこと!アニメではダメです*1。
NEW GAME!、面白すぎ~
読み返して感じたことは次の言葉につきます:NEW GAME!の完成度が高すぎる。
その心は、NEW GAME!は極めて自然に物語の展開やコマの配置がなされている一方、その自然さを利用して巧みに表現を行っているということです。
NEW GAME!の自然さ
特に「ぬるめた」を読んだ後にNEW GAME!、自然すぎる!!と感じました。以下で述べるように、NEW GAME!は「自然」な表現をほとんど崩さない形で工夫を凝らしているからこそ、全体の完成度やストーリーの入ってきやすさが他とは一線を画しています。極限まで雑味を減らしたおいしすぎる鶏がらスープを飲んでいるみたいな感じ。
情報量の過不足のなさ
なんか、NEW GAME!ってものすごく情報量が適切なんですよね。
指摘されているように*2まんがタイムきららはどんどん情報量を詰め込む方向に向かっていると思うのですが、その傾向って自明なものではないはずです。特にあのA5版の単行本の縦に4つ並んだ小さなコマに更に細かい情報を描き込んでいるわけです。雑誌の時はまだいいですが、単行本になると本当に描き込みを読むのが大変になります。そもそも単行本の解像度の問題で、何が描いてあるのかわからない場面すらあります*3。
そんなまんがタイムきららの性質上、1コマに描き込む情報量を削いで、伝えたいことを強調する方向性もあってよいと思われます*4。その点で、NEW GAME!はめちゃくちゃ自然です。無背景やトーンだけの背景が多く、文字数も多くない分、キャラクターの顔を大きく描いて心情を表情の変化で描いています。
しかも、NEW GAME!は登場人物の表情の描かれ方が上手く、表情を追っていくだけでだいぶキャラクターの性格が分かる点で、非常にこの「自然」なコマの描き方を使いこなしていると感じます。
コマの使い方
コマのフォーマットを変形し、工夫することによって表現を多層化する作品があります。例えば「妄想アカデミズム」はコマを丸くし、各キャラクターに対応するシンボルを添えることで、現実か妄想か、そしてその妄想は誰のものかを読者に分かりやすく示しています。「ぬるめた」では、コマを横にぶち抜きながら二つの会話を縦に展開することで、同じ瞬間における別々の会話を並列させています。また、現在では多くの作品で複数コマを合体させて縦にぶち抜くことが見られます。こうしたコマを「変形4コマ」とでも言いましょう。ここで言いたいのが、NEW GAME!には、こうした変形4コマがほぼ存在しないということです。
しかし、これはコマによる表現の工夫が行われていないということを必ずしも意味しません。例として、単行本4巻の70~71ページを挙げます。これ、横に読めるんですよね。例えば最下段だけを右から左に追って行くと、何となく意味が取れたりします。つまり、見開きの4列が、同じフォーマットで繰り返されています。これがとても面白い。同じフォーマットで繰り返すことで、通常の4コマよりさらに読みやすくなっており、テンポの良さを生み出しています。しかも、一度見開き1ページを読み通した後、全体的に最下段だけが目立って見えると思います。明らかにここだけ滝本ひふみサンの顔がドアップで映っているからです。これは前掲の「情報量を詰め込む」流れと対照的ですが、4つの横方向のコマの情報を統合できている点で情報に奥行きを生み出していると言えるでしょう。変形4コマを使わずとも、1コマに通常以上の情報を付与することができており、見事というほかありません。
締め
ストーリーが面白い!と言うのはそれはそうなので、敢えて触れませんでした。悪しからず。
また、当方が受験生で共通テスト前から断続的に記事を書いていたこともあり、文章が不安定で分かりにくい部分があると思うのですが、そこはごめんなさい!
とりあえず、受験期にゆっくりNEW GAME!を読み直していて考えたことを書いておこうと思い、こちらを書いた次第です。
検討不足であったり妥当でなかったりする点はすべて私の至らなさに起因します。
とりあえず、NEW GAME!が素晴らしい作品であることに違いはありませんので、是非読んでいただければ幸いです。
中高の競技科学・研究のここが良い!ここがダメ!
2025年に一度もブログを更新しないのは流石に良くない。
これは、何?
中高生の科学系課外活動の代表格であるところの競技科学と研究。それについて、ここが良い・ここがダメを経験をもとに書き記すことで、後の人たちの参考にしてもらおうという教育的な試み。適度に事実を誤魔化しつつ参考になりそうなことを書きます。
貴方は、誰?
国際科学オリンピックの元代表で、大学でたくさん研究もしていた。よくヰ世界情緒サンという人へ愛を叫んでいる。
注意
この記事は個人的な経験・主観を多分に含んでおり、これを参考にするのは自己責任でお願いいたします。加えて、ざっくりとした話をしているので、以下の言説が当てはまらない場合もありますが、ご容赦くださいませ。あとさっきのヰ世界情緒サンは本当に関係ないです。
競技科学*1
ここが良い!
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自己肯定感が上がる
成績が良いとメダルや賞をくれる。これをみて、「自分めちゃくちゃものを成し遂げてる~」と悦に浸ると幸福度が上がること間違いなし。
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賢くなれる
競技科学で成果を出しているような賢い人に触発されたり、もっと問題を解けるようになりたいと思うと勉強しようという気にもなるもの。実際、賢い人が考えているところを見るだけで自分にも賢さのお裾分けが来たりする。国内大会の問題は良問も多く、かなり教育的。しかも国際大会の代表候補になればお高い教科書を買い与えてくれる場合もあり、何かと低コストで能力を上げられる環境がある。
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(成績に比例して)待遇が良い
国内の予選を勝ち残れば、無料~低予算で国内旅行ができることが多い。国際大会の代表候補になれば、更に何度か宿泊行事が降ってきがち。代表になれば、代表研修で更に何回かの宿泊、その上10日前後の海外旅行まで獲得できる。しかも教育目的なので交流や施設見学、講義、観光などが設けられており、下手に旅行するより有意義な体験ができる。代表まで残ると計50万~100万/人くらいかかっていそう。文部科学省や協賛企業、大会運営の皆様には本当に頭が上がりません。
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知り合いが増える
大会やTwitterで交流していれば知り合いも増え、困った時には頼りになることもあろう。
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実績になる
悲しきかな、「私、めっちゃ科学ができます」と言うより「私、〇〇オリンピックの△メダリストです」と言った方が強そうなのは世の理。なんなら「〇〇オリンピックに出たことあります」と言うだけでも傍から見ると強そう。端的に自分の能力や興味を伝える上で競技科学はとても便利。
ここがダメ!
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自己肯定感が下がる
難しい試験を受ければ難しさに心が砕けそうになるのが人の性。しかも周りにはそんな試験をもろともせず、サラサラと解ききってしまう賢人がわんさか。真面目に競技科学をやって成果が出てこないと自己肯定感が下がってしまいがち。
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不安になる
世の中ってこんなに能力主義でよかったんでしたっけ?これって教育的?実は大人に踊らされているだけ?などと考えて不安に陥ってしまう人もいるに違いない。
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身を危険にさらす
知り合いが増えるということは世間への露出が多くなるということ。自分が相手と知り合った時、相手も自分と知り合っている。安易にTwitterの競技科学界隈などに手を出して、ネットリテラシーの低さから自身を危険に晒してしまう人も。ストーカみたいな事案も生じかねない。
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競争に目が行きがち
競技科学の本質は、科学の面白さを体感することにあるのに、賞やメダルに目がくらんで競争本位になってしまうことも。よっぽどの戦闘狂か、自分を苦しめたい変態さんでないと身を滅ぼしてしまう。競技に固執せずに楽しいことをしましょう。
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知名度がありすぎる
何故か知らないけど科学オリンピックの権威がありすぎて、中高生の学問的専門性を推し量るには競技科学一択!みたいな風潮があるかもしれない。大学のAOとかでも研究よりは科学オリンピックの受賞の方が評価されがちらしい。本当は競技科学なんてごく狭い世界のはずなんですけどね。
研究
特に、大学やその他の研究機関で自主的に研究することを指します。部活や学校ではない。特に科学技術振興機構がやっているGSC(グローバルサイエンスキャンパス)やSTELLAプログラム(次世代科学技術チャレンジプログラム)の経験ベースなので悪しからず。
ここが良い!
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欲が満たされる
基本的に新たなことをするのが研究なので、実験の良しあしに関わらず、本能に訴えかける楽しさがある。人間は新しいものが好きなので。しかも中高生のうちは研究が義務ではないので、完全に興味に従って研究ができる。中高生に研究を押し付けてくるほど暇な大人は居ない。
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責任が少ない
別に研究がうまくいかないからと言って、それで肩身が狭い/学位が取れない/卒業ができない/ボスを怒らせる/職を失う/社会的立場が脅かされるみたいなことはそうない。人間関係や予算の責任はあれど、研究自体に大して責任が生じないのは今だけの可能性が高い。
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経験値が上がる
自分の手を動かして自然にすり寄っていったことのある同年代の人間はほぼいないので、経験値や勘が身についているだけで激アドなことがある。特に競技科学や受験をする人にとっては効果てきめん。
ここがダメ!
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孤独
研究室などに入ってしまうと、無論周りに中高生などいることの方が少ない。研究をガチればガチるほど、同じくらい研究に熱心な中高生の数は減っていく。特に物理・化学の、実験室で実験をしなければならないタイプの分野はそもそも母数が極めて少ない*2。ふとわが身を俯瞰して悲しくなってしまいがち。共同研究などすると良いかもしれない。
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不安になる
周りが遊んでたり勉強してたり部活していたりする中、なぜ自分は大学でもできる研究をしているんですか?研究よりもやるべきことがありませんか?豊かな人間性をはぐくむ機会を捨てていませんか?などと不安になってしまう。楽しいので良いのです!という意見もある。それとも私が心配性なだけ?
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待遇が不安定
ひとえにJSTの中高生研究プログラムと言っても、待遇は場所によって雲泥の差。最初に書く研究計画書が日本語NGで、言語の壁を乗り越えないと研究不可な場所から、最初はみんなに研究させて後で研究の様子をもって選抜するところまで様々。本当に自分のやる気を損ねない場所か見極めるべし。
全体的な感想
研究も競技科学も同時にちゃんとやるのは結構キツいです。特に睡眠が足りないので精神が音を上げてしまう。代表選抜の前にナーバスになってたのの原因の7割はこれだと思う。趣味の一つや二つ持っておくと緩和されることでしょう。でも意外とやってみると楽しいので興味があれば是非。
おわりに
おもしろそ~と思ったらやってみてつまんね~と思ったらやめるのが最適だとされている。
飾磨司さんにノーベル化学賞を獲ってほしい
英題は"An Approach to Winning the Nobel Prize in Chemistry for Tsukasa Shikama"です。これでNature*1を狙います。嘘です。
はじめに
ご存じの方も多いかと思いますが、タイトルにあります「飾磨司さん」とは、漫画「きもちわるいから君がすき」(西畑けい、芳文社)という作品のメインキャラクターの一人のことです。以下「きもちわるいから君がすき」のことを「きもすき」と呼称します。また、僭越ながら以後はキャラクターの敬称を省かせていただきます。
さて、きもすき第2話の冒頭にて、飾磨司が同じくメインキャラクターの一人である御影依子の自宅を訪問した際、御影依子の香りに対して「香水にして常備薬にできれば ノーベル化学賞に...」と着想するシーンがあります(図1)。
ノーベル賞は言わずと知れた大変権威のある賞で、もし飾磨司が受賞すれば、国内26人目、日本人女性としては初*2の成果となります。この一節が本当であるなら、この栄誉をぜひとも獲得していただきたいと、いちきもすきファンとして思うわけです。
以上の理由から、本記事では、飾磨司が御影依子の香りを香水にすることによってノーベル化学賞を受賞するための一つのアプローチを提示したいと思います。

方針決定
問題分析
目的達成のためには、解決されるべき問題が何かを明確にする必要があります。今回、飾磨司がノーベル化学賞を得るために必要な条件は「御影依子の香りを香水として常備薬にすることが可能となる」ことでしたが、これは以下のように細分化できます。
- 御影依子の香りを合成すること
- 合成物を香水として取り扱えるようにすること
- 香水を薬剤とすること
このうち、2は既に多くの企業が香水を生産していることから、ある程度確立された技術が存在することが期待されます。ノーベル賞を受賞できるような革新的で新規性をもった研究が行われる余地が存在するのは、1ないし3であると言えるでしょう。
研究テーマの推定
1については、「御影依子の香り」という物質(さらに言うなら生体由来の複雑な混合物)を合成する過程に力点が置かれており、有機合成を用いて複雑な混合物を与える一般的な戦略を考案することにあたります。基本的に複数の反応を同時に制御することは困難と考えられるため、もしある程度の一般性を持った戦略を考案することができれば、ノーベル賞を受賞するに値する研究であると言えるでしょう。実際、逆合成解析を考案し、有機化合物の合成経路を合理的に導く手法を与えたイライアス・コーリーはノーベル化学賞を受賞しています*3。
一方、3については有効成分が含まれた香水(=御影依子の香り)を薬剤とするわけですから、研究としては御影依子の香りの薬効やその作用機序を明らかにすること、ないしは御影依子の香り成分という物質が、特定の症状に対して効力を発揮することを報告することであると想定できます。ノーベル化学賞の受賞理由となった研究のうち、生体物質の機能や構造を明らかにしたものは少なくなく*4、前者のような研究でノーベル化学賞を受賞することは十分に考えられます。一方、後者はエバーメクチンを発見し、「線虫感染症の新しい治療法の発見」でノーベル賞を受賞された大村智博士を彷彿とさせますが、氏が受賞したのはノーベル生理学・医学賞であること*5を鑑みるに、ノーベル化学賞の範囲を逸脱していると言えます。
以上の議論によって、飾磨司のノーベル賞受賞理由となりうる研究テーマを、a)複雑な混合物を与える一般的な戦略の考案、b)御影依子の香り成分の生体内作用の解明の二つに絞ることができました。
具体的な手法―ひとつの可能性として―
際限ない可能性を持った未完の研究に対し、それの行く先を予言して枠を作ってしまうことは大変ナンセンスではありますが、それはそれで面白くないので、あり得そうなシナリオのひとつとして考えられるものをメモ程度に示しておきます。先ほど提示したテーマのうち、(b)については御影依子の香り成分がどんなものであるかによって大きく詳細が変化するため、これ以上の推定は困難です*6。しかしながら、(a)については、コンビナートリアルケミストリーと呼ばれる学問分野が一部関連しているかもしれません。
コンビナートリアルケミストリー、そしてその応用
非常に雑に言えば、コンビナートリアルケミストリーは、基質と試薬
*7を反応させ、化合物郡
(理論上
個の化学種の混合物が生成する)を合成するための学問領域です。
なぜこのようなことをするのかというと、一度に多くの化合物を(少量でもよいので)合成することで、医薬品の探索をはじめとした、多くの試行回数を要求する作業を効率的に行うことができるようになるためです。
しかしながら、視点を変えると、これは一度にある特徴を持った化学種たちの混合物を与える操作であると言えます。コンビナートリアルケミストリーを用いて、また飾磨司の"天才的な発想"によって、種々の目的化合物が意図した割合で生成するように反応を制御することが実現されれば、御影依子の香りの香水を作成すること、そしてノーベル化学賞の受賞の双方を達成することができるのではないでしょうか。
おわりに
こんな駄文に最後までお付き合いいただきありがとうございました。前回*8にも増して素材(?)が少なく、想像による補完が大きくなってしまったのは反省したいと思います(理論には実験や観測による裏付けが求められるので)。いずれこれらを裏付ける、ないしひっくり返す描写が現れることを願っております(??)。加えて、思い付きで一気に書き上げてしまったため、検証が不十分であろう箇所が多くあるかと思います。ご容赦ください。また、ネタ提供をしてくださったイワン・コッチャナイロフスキー(X: @nomenclature810)と、きもすきという素晴らしい作品を連載してくださっている西畑けい先生に深い感謝を申し上げます。
それでは最後に
\\せ~の!きもすき、きもすぎ~~!!!//
P.S. これは後から知ったのですが、2001年にノーベル化学賞を受賞された野依良治先生は芦屋市出身らしいですね。特に他意はありませんが。
*1:学術論文誌。でも実は一般向けの記事もあって海外だと一般人も割と買うらしい。
*3:The Nobel Prize in Chemistry 1990 - NobelPrize.org
*4:例えば近年では、「DNA修復の仕組みの研究」(2015年)、「Gタンパク質共役受容体の研究」(2012年)がそれにあたります。
*5:The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2015 - NobelPrize.org
*6:御影依子の香りの効果に言及したものは「頭が沸騰しそう」(「西畑けい「きもちわるいから君がすき 1」, 芳文社, 2023, 18頁)だけですが、これが直接的な効果であると断言することは難しく、現時点でこれ以上の絞り込みを行うことは困難であると判断しました。
*7:はそれぞれ化学種であって元素を指しているわけではなく、したがって下付き文字は原子の個数ではなく単なる通し番号です。
妄想アカデミズムにかこつけて反芳香族の話をする
【新歓】「妄想アカデミズム」にかこつけてε-δ論法の話をする - 東京大学きらら同好会を読んでいたら反芳香族の話をしたくなりました。
妄想アカデミズムという素晴らしいマンガがありまして、その作中第6話でベンゼンや軌道についての話題が出てきます。

檜山ユキ「妄想アカデミズム」, 2023, 芳文社, p55より引用
「sp
混成軌道は120°の広がりを持っているから4つの炭素で環を作ることはできなくて―」
この台詞、ちょっと気になりませんか?
まず妄想アカデミズムのキャラクターにはもっとくっついて仲良くしてほしいですし、そのためには炭素にもspで4員環を作ってもらいたいものです。
ということで、妄想アカデミズム第6話をもっと理解する・してもらうためにシクロアルケンと反芳香族の話をしようと思います。
ただし、私は化学にとても詳しいわけではないので、この記事に嘘が含まれている可能性が多分にあります。もし見つけたら(@ousui_0052)のDMなどでこっそり教えてください。
軌道って何?
いきなりこの炭素の軌道が~という話をすると、これを読んでいる方々を宇宙に飛ばしかねませんが、(図2)長くなりそうなので割愛します。

檜山ユキ「妄想アカデミズム」, 2023, 芳文社, p53より引用
多分インターネットで調べれば簡単な説明が見当たると思うので、そちらを参照してください。
混成軌道と結合角


(左)s軌道。s軌道 - Wikipedia より引用。
(右)p軌道。p軌道 - Wikipedia より引用。
軌道には様々な種類がありますが、今回出てくるのはs軌道とp軌道です。
それぞれこんな形をしています(図4)。
通常、これらの軌道の重なり具合が一番大きくなるように(=原子核間の電子密度が最大になるように)原子同士が結合します。



左からsp
中西和嘉「炭素-炭素結合の軌道と構造」,2010, 化学と教育, 58, 8, p366-369より引用
しかしながら、空間的に方向性を持たないs軌道と、方向性を持つp軌道×3を同時に眺めて、どこが一番重なりが大きくなるかを見出すことは至難の業です。そこで、混成軌道という近似を用います。先に軌道を足し合わせておくわけです(図5)。
ここで、sp, sp, sp
混成軌道は、それぞれs軌道にp軌道を1つ、2つ、3つ足し合わせた軌道です。それぞれに対して2つ、1つ、0つのp軌道が余りますから、これが作るπ結合によって多重結合が可能になります。
この混成軌道のローブ(=広がっている部分)の角度が結合角として、通常みられるわけです。
莉子が言っていた、「sp混成軌道は120°の広がりを持っているから~」という台詞は、ここからきていたわけですね。
すべての炭素原子は、「混成軌道通り」にしか結合できないのか
しかし、混成軌道と結合角が必ずしも一致するとは限りません。その例としてシクロプロパンがあります(図6)。この分子は少々不安定ながらも、常温常圧で存在します。


(右)図7, シクロプロパンの軌道の重なり。K.P.C.Vollhardtほか「ボルハルト・ショア―現代有機化学」, 2020, 化学同人, p181より引用
この分子、見ただけで結合角が60°であると分かります。シクロプロパンは単結合しか持ちませんから、sp混成であり、結合角は109.5°であるはずです。しかしながら、図7のように、ローブ同士を折れ線形に交差させることによって、結合角60°を達成しています。また、結合角を無理やり小さくしていることから、この分子には「ひずみ」が生まれ、不安定化を起こします。
このように、混成軌道から予想される結合角とは異なるものの、安定に存在する例は多く存在します。
これを見ると、同様にsp混成で4員環も多少の不安定化を伴いつつも、比較的安定に存在する気がしてきました。
もっと電子に寄り添って考える
上では混成軌道によって、分子の立体的な安定性について考えました。しかし、分子の安定性を決める要因はそれだけではありません。分子軌道による電子のエネルギーも同じく重要です。
sp混成の4員環炭化水素分子であるシクロブタジエンの分子軌道を考えてみましょう。これは、ヒュッケル法を用いて万年方程式を解くことによって求められますが、行列などの高度な数学を用いる必要があります。流石にこれを解くのは難易度が高い、ということで、より定性的に議論してみましょう。フロンティア軌道論によって分子軌道を予想します。


(左)過渡的軌道。
(右)各軌道の形状。色は位相の正負を表す。
シクロブタジエンのような分子の場合、反応に寄与するHOMO、LUMOはπ軌道によるものだと考えられます。したがって、π軌道の相互作用にのみ注目して議論を単純化します。
次に、注目するシクロブタジエンの軌道は、エチレン二つの軌道の相互作用によって形成されると考えます。注目するのはπ軌道ですから、エチレンのπ軌道に注目して相互作用を考えてみましょう。
始めに、被占軌道であるπ、π
、空軌道であるπ*
、π*
がそれぞれ相互作用して、過渡軌道1’~4’を形成します(図8)。
ここで、過渡的軌道2’、3’に注目します。どちらの軌道も、C1~C4の軌道の広がりが等しく、また片方の軌道の位相は、もう片方の軌道において、シクロブタジエンの正方形を90°回転させたものに等しいです。このことから、2’、3’はエネルギーが等しい軌道であると考えられます。
2’、3’が縮退していることを加味した過渡的軌道である2’’、3’’は、これらを足し引きしたものになると考えられ、図8右に示した軌道を得ます。
最後に、それぞれの過渡的軌道への空軌道や被占軌道の混入を考えますが、1’は対称、2’'、3’'は非対称、4’は反対称であるため、これらはいずれも混入せず、そのまま求める軌道1~4を与えます。
このようにして、シクロブタジエンのエネルギー準位図を見積もることができました。これを見ると、2、3は縮退しており、それぞれの軌道にひとつずつしか電子が入っていないことが分かります。軌道が埋まりきっていないため、このようなエネルギー配置(三重項)は非常に不安定です*1。
このことから、シクロブタジエンは分子軌道の観点から不安定であることが分かりました。
このような議論を一般化すると、π電子が4n個のπ環状化合物は不安定であるという性質、すなわち反芳香族性を説明することができます。
幻のsp
混成4員環分子
前節までで、結合角がもたらすひずみによる不安定化、三重項による不安定化について考えました。
ここまでで察している方も多いかと思いますが、不安定化のダブルパンチにより、シクロブタジエンは通常安定に存在しません。極低温において遊離のシクロブタジエンを観測することができるものの、-200℃においても容易に反応を起こすほど不安定です。
しかしながら、未春たち4人の結びつきはそれほどまでに不安定で儚いものだと思いたくない方々は多いのではないでしょうか。私は思いたくありません。
そんな方々に朗報です。実は、適切な保護を施すことによって、安定に存在することができます。
例えば、シクロブタジエンにフェニル基を置換したテトラフェニルシクロブタジエンは、鉄などの遷移金属と錯体を形成し、安定に存在することができます。また、ホスト化合物内にシクロブタジエンを閉じ込めることで安定に存在することができるようです。
作中への応用
ようやく、悲願であった「4つのsp炭素を環状にくっつける」ことに成功しました。これで安心して未春たちの行く末を見守れますね。
最後に、シクロブタジエンの構造に触れて終わろうと思います。

シクロブタジエンの平衡。筆者作成。
シクロブタジエンはπ電子の重なりによって不安定化が起こっているために、長方形の形をしています。もちろん二重結合が短辺、単結合が長辺です。また、これにより、π電子は共役をしておらず、二重結合の組換えた化合物とは平衡状態にあります(図9)。
このことを作中の設定に落とし込んでみましょう。普段の親密度から推測するに、未春-莉子、ゆう-一葉間が、結合距離の短い2重結合で、また、未春-ゆう、莉子-一葉間が単結合で繋がれていると考えることができます。
ここで原作を参照すると、同一の順で環を作るように描写されており(図1)、見事に一致しました。
また、単結合と二重結合の組換えには活性化エネルギーが必要であることから、ある程度のエネルギー(たとえばキスしたことによる後悔や動揺)によってこれらの関係が入れ替わることが示唆されます(例えば13話)。
以上より、妄想アカデミズムにおける人間関係をシクロブタジエンに落とし込むことによって、作中での事象を説明することができました。
最後に
このような怪文書に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
少しでもお楽しみいただけたなら幸いです。
参考文献
- 山辺信一, 稲垣都士「プログラム学習 入門フロンティア軌道論」, 1989, 講談社
- K.P.C.Vollhardt, N.E.Schore (古賀憲司ほか監訳、大嶌幸一郎ほか訳)「ボルハルト・ショア―現代有機化学」, 2020, 化学同人
- wikipedia「シクロブタジエン」, 2023/11/26閲覧,
- 檜山ユキ「妄想アカデミズム」, 2023, 芳文社
*1:同様の例として、基底状態の酸素分子が挙げられます。この性質により、単体の酸素は燃焼をはじめとする強力な反応性を示します
第43回数理の翼夏季セミナーに参加しました
2023年8月8日から12日にかけて行われた第43回数理の翼夏季セミナーに参加しました。
数理の翼夏季セミナーって何?
NPO法人数理の翼によって開催されている、数理科学に関心のある高校生を集めてわいわいするセミナーです。夏季セミナーの他に、伊計島セミナーや冬季セミナーなどいくつか種類があります。2023年は埼玉県で開催されました。
やったこと
講義
基本的に講義を聞いていました。(募集要項やHP、しおりをほとんど読まずに参加したので)参加者同士の交流がほとんどだと思っており、1日6時間講義があったことには少し驚きました。
講義はどれも面白く興味深い内容でしたが、トポロジーの講義は開始10分で置いていかれました。ただ先生が大変楽しそうにお話しているのを見てただ楽しくなってました。
参加者発表
「理系きららのすすめ」というタイトルで発表しました。発表要綱に「アカデミックな内容に関わらず大歓迎です」とあったのでこのような発表をしたのですが、9割型アカデミックな内容で本当にびっくりしてしまいました。要綱にこう書いてあるってことはふざけろって言ってるのと同義だろ
とはいえ割とウケたので個人的にはかなり安心しました。発表を聞いていた講師の先生が恋アスを読んだことがあるとおっしゃっていて本当に驚きました。
スライドが見たいという方はTwitter(X)のDMなどでその旨を伝えていただければ差し上げます。
夜ゼミ
参加者やスタッフが自由に好きなことについて語れるのが夜ゼミです。私は色々な人の話を聞いていたら、気づいたら自分が夜ゼミをする時間が無くなっていました。結局、恋アス朗読会以外の夜ゼミを企画しないまま終わってしまいました。
これはもし本文を読んだ方の中にセミナーに参加する方がいたときのためのアドバイスですが、本当に夜ゼミでしゃべりたい内容があるなら初日にやっておきましょう。語ろうと思って語れなかったことがあると、終わってから後悔します。
参加して得られたこと
- 様々な分野の方々が楽しそうに喋っているのを見て、他分野へのモチベが上がった
- 主に自分の専門分野を極めている人たちを見て、自分が低いレベルで満足していることに気が付き、(若かりし頃の?)向上心をとりもどした
- 全国各地の強い人たちと仲良くなれた
- 講演者が楽しそうなのでこちらも楽しいが、なんも分からんというタイプの講義を久々に摂取できた
数理の翼に興味のある人へ
- とりあえず応募してみましょう。何もしないよりはとりあえず何かしてみるほうが何倍も良いです。自分は締め切りの3時間前まで応募する気がありませんでしたが、そのまま応募していなかったらこんな機会得られませんでした
- 勢いはとても大事です。これは書類を書く時もそうですし、もし参加することになったらさらに必要になってくると思います。本当に自分が通った理由が勢いしか見つからないので
- 自分が好きな分野くらいは楽しく全力で語れるように知識やネタを装備しておいた方がいいです
最後に
数理の翼楽しすぎたので来年も行きたいね。(もし理事の方がこれを見てくださっているなら)来年も通してください。本当にあの空間にもう一度戻りたいです。お願いします()
最後に、セミナーを開催してくださったNPOの方々や当日お世話になったスタッフの皆様、そしてなによりあの場でわいわいしていた参加者のみなさんに最大限の感謝をしてこれを終わりたいと思います。